零細米粉研究員の備忘録

米粉に関することなどをたまに書いていきます

米粉の損傷デンプンについて

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米粉の性質を表す指標として、米の粗さや細かさは確かに重要であるが、それだけではない。米粉パン用の米粉で重要な指標は、損傷デンプン含量である。


損傷デンプンとは、粉砕中の熱や衝撃で傷が付いたデンプンの事である。損傷デンプンは吸水に大きく関わっている。小麦の場合、健全なデンプンは粉重量の0.44倍の吸水をするのに対し、損傷デンプンは2倍の吸水をすることが分かっている(製パンプロセスの科学p122、引用元はGreer and Stewart (1959) )。
米においても、損傷デンプン含量が高いほど吸水量が多い事が、庄子らによって示されている。

細かい米粉であれば必ずしも損傷デンプンが高いわけでない。市販の米デンプンの中には米粉の大きさが平均5μmくらいしかないものも販売されているが、損傷デンプン含量が2%以下だったりするのもあるし、一部の上新粉は大きさが平均100μm以上であっても、損傷デンプン含量が10%以上のものもあったりする。小麦粉の場合、損傷デンプン含量は2~5%くらいらしい。

小麦においては、この損傷デンプンの多くは製パン中に分解される。なぜかというと、小麦にはアミラーゼというデンプン分解酵素が多く含まれていることと、損傷デンプンは健全デンプンより分解されやすいからである。米にはほとんどアミラーゼが含まれないため、米粉パンを作る際には損傷デンプンの影響が大きくなる。

 

損傷デンプンが多い米粉を用いてパンを作ろうとすると、吸水が多くなるためにパンの生地が重くなる。そのために、パンの膨らみが劣ることとなってしまう。Arakiらの報告や、與座らの報告によると、米粉の大きさとパンの膨らみとの間には相関はなく、損傷デンプン含量とパンの膨らみとの間に有意な負の相関があることが示されている。つまり、損傷デンプンが高いほどパンの膨らみが劣るということである。
小河、永井の報告によると、損傷デンプンだけでなく米粉の大きさとパンの膨らみとの間に相関があった。これは、著者も指摘しているように、粒子が細かく損傷デンプンも低い粉を使ったことが影響していると思われる。

米粉パンの場合には、損傷デンプンは低い方がよく、5%以下が望ましいとされている。

損傷デンプン含量の測定方法は、今は主にキットを用いる。

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メガザイムという会社が販売している製品で、日本バイオコンという会社から購入できる。
損傷デンプンのみを分解できるアミラーゼを加え、分解されたデンプンの量を測定するというものである。損傷デンプン含量が高いほど濃い赤色になるので、視覚的にも分かりやすい。色の強さは分光光度計という機械で測定する。

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最初の頃に焼いたパンのできが非常に悪かったのは、損傷デンプンが高すぎたからであった。自分が研究を始めた当初、損傷デンプンの重要性について全然知らなかった。過去の文献をしっかり調べておけば分かった話ではあったのだが、勉強不足であった。
このことが分かったのは、同じ時期に研究を始めた先輩から教えてもらったからである。
それで、品種間の比較をするにしても、損傷デンプンの低い米粉を作らないと研究にならないことが分かり、米粉パン用の米粉を作るためにあれこれ努力することとなる。