米粉パン向き品種「ミズホチカラ」について
水稲品種「ミズホチカラ」は不思議な品種である。
グルテンを加えて作る米粉パンも、グルテンフリーの米粉パンもよくできる品種なのである。
小麦のタンパク質にはグルテニンとグリアジンがあり、生地を捏ねるとこれらのタンパク質が結合し、グルテンを形成する。
米のタンパク質にはグルテニンとグリアジンに相当するものがないので、グルテンフリー米粉パンを作るには、グルテンの代わりとなるものを加えるのが一般的である。
古くから用いられてきた副原料は、増粘多糖である。
約40年前の報告でも、Nishita et al.により、HPMC(Hydroxypropyl Methylcellulose)を添加して作った米粉パンについての論文がある。
「ミズホチカラ」という品種の米粉は、グルテンや増粘多糖とかも使わずパンができる品種である。
米粉に砂糖、塩、油、イーストを加えて、ホームベーカリーで焼くと、よく膨らむパンができる。
この原因は今のところよく分かっていない。
ミズホチカラの成分やグルテンを加えて作った米粉パンについては以前に調べたことがあって、以前に論文を出している。
この時は、米粉80%・小麦グルテン20%の割合で混ぜて粉を使ってパンを作っていて、コシヒカリのパンよりも膨らみが大きかったことを示している(図1)。
左:「コシヒカリ」のパン(比容積3.8)、右:「ミズホチカラ」のパン(比容積4.1)
これはアミロース含量の違いが原因である。
コシヒカリのアミロース含量が18.0±0.2%であるのに対し、ミズホチカラのアミロース含量は23.3±0.4%となっており、ミズホチカラは、コシヒカリよりも5%くらいアミロース含量が高かった。
去年(2015年)ミズホチカラでHPMCやグアーガムなどを加えずにパンができるという話を初めに聞いたときには、半信半疑であった。
論文を書いたときに使った米粉がまだ残っていたので、試しに焼いてみたら、確かにきれいに膨らんだ(図2)。
左「コシヒカリ」のグルテンフリー米粉パン、右「ミズホチカラ」のグルテンフリー米粉パン
ミズホチカラは一般的な品種とは異なり、台湾や韓国の品種の血が濃い品種である(図3)。
図3 ミズホチカラの系譜
ミズホチカラのパンがうまくできるのは、これらの品種の影響が遺伝されているのだろう。
何人かの知り合いに密陽23号や水原258号の種子か米を持っているか聞いてみたのだが、誰も持っていなかった。
そんなわけで、どの品種がこの製パン性に関わっているのかは分かっていない。
山形大学の西岡教授らのグループで、米粉のみで作ったパンについて報告されている。
これによると、75~106μmの米粉を用いた時に最もよく膨らんだことが書かれていた。
しかし、この時に用いたミズホチカラの平均粒径は32.9μmであり、これよりも細かい粉であった。
おそらくは粉としての性質が原因ではなく、品種の何かが原因なのであろう。
ミズホチカラを親に持つ品種として、「モミロマン」「べこあおば」「モグモグあおば」などがある。
「モグモグあおば」の米粉はあったので焼いてみたが、ミズホチカラのようにはならなかった(図3)。
左「ミズホチカラ」のグルテンフリー米粉パン、右「モグモグあおば」のグルテンフリー米粉パン
アミロース含量もミズホチカラと同程度のはずなのに、膨らみとかきめの細かさとかがけっこう違っていた。
なぜ膨らみが違うのかはやっぱり分からない。