零細米粉研究員の備忘録

米粉に関することなどをたまに書いていきます

デンプンと米粉パン

デンプンはブドウ糖グルコース)がつながってできた多糖で、直鎖状につながったアミロースと、分岐鎖の多いアミロペクチンから構成される。

ヨウ素で染めると青紫色になるのがアミロースで、赤紫色に染まるのがアミロペクチンである。

アミロースとアミロペクチンを図にしたらこんな感じとなる。

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このアミロースとアミロペクチンの双方が、米粉パンの性質に関わっている。

 

以前に書いた記事で、多収穫米の米粉パンについて調べたことを書いた。

用いた品種は、「クサノホシ」、「クサホナミ」、「タカナリ」、「べこあおば」、「べこごのみ」、「北陸193号」、「ホシアオバ」、「モミロマン」、「夢あおば」、である。

ただ調べるだけでは研究にならないので、成分と製パン性との関係も調べることにした。

米にも色んな成分があるが、着目したのはデンプンである。デンプンは米の成分の中で最も多く含まれている成分(乾燥重量の約90%)であることと、ご飯の食味に関わっていることが知られていたからである。

 

多収穫米のアミロース含量を調べたところ、以下のようになった。

 

    品種名             アミロース含量(%)

コシヒカリ  15.9 ± 0.6 

クサノホシ  19.3 ± 0.1

クサホナミ  16.5 ± 0.1

タカナリ   16.1 ± 0.1 

べこあおば  19.8 ± 0.2

べこごのみ  18.2 ± 0.1

北陸193号   17.4 ± 0.1

ホシアオバ  20.0 ± 0.1

ミロマン  26.0 ± 0.2

夢あおば   20.2 ± 0.1

 

「モミロマン」のアミロース含量が高く、他の品種はコシヒカリと同等かやや高い程度であった。

新潟県の高橋らの報告で、アミロース含量が高いと米粉パンが固くなることが書かれていた。このことから、アミロース含量が高い「モミロマン」のパンが堅くなることは最初から予想されていた。

実際に食べてみると、やはりコシヒカリの米粉パンより堅かった。

 

しかし、もっと固いパンがあった。それは「クサホナミ」という品種の米粉パンであった。

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上の図は、焼いてから2日目のパンについて機械で測定した結果であるが、「クサホナミ」の米粉パンは、「コシヒカリ」の米粉パンの約3倍の硬さであった。

食べてみると、焼いて2日目なのに一週間は置きっ放しにしたようなパサパサ感である。

「クサホナミ」の品種育成についての報告書を読むと、炊飯米はコシヒカリほどでないにしても、「日本晴」並みということで、それほど悪くはない。

最初、このパンの硬さの原因が分からず、品種を間違えてしまったのかと心配になってしまった。

 

原因が何か分からないので、色んな性質を調べてみた。そうしたら、一つだけ「クサホナミ」に特徴的な特性があった。

デンプンの糊化(α化)の温度であった。

 

 

品種名   糊化開始温度(℃)

コシヒカリ 66.9 ± 0.0

クサノホシ 66.5 ± 0.1

クサホナミ 71.9 ± 0.4

タカナリ 66.5 ± 0.1

べこあおば 66.5 ± 0.1

べこごのみ 66.5 ± 0.0

北陸193号 66.5 ± 0.0

ホシアオバ 66.5 ± 0.0

ミロマン 66.6 ± 0.0

夢あおば 66.4 ± 0.0

 

「クサホナミ」 だけ他の品種より5℃くらい高いのであった。

アミロペクチンの鎖が短いと糊化温度が低くなり、鎖が長いと糊化温度が高いことが以前より知られている。

 

炊飯米だと普通に食べられて、パンにすると硬かったのは、調理してから食べるまでの時間が問題であった。

Umemoto et al (2008) の報告によると、アミロペクチンの長い品種は炊飯直後は硬くないものの、時間がたつとより硬いことが示されていた。 

食味検定ではご飯を炊いて冷めてからすぐに食べるのに対し、パンは2日間おいたことから、報告書と自分の結果に差が出たのだろう。

これらの結果について、それなりに詳細に調べ、「The Amylose Content and Amylopectin Structure Affect The Shape and Hardness of Rice Bread」というタイトルで論文発表を行った。

 

論文にまとめてはみたのだが、結局のところ、普通の品種であれば米粉パンにできるという当たり前の結果を示しているにすぎない。

「クサホナミ」のような品種は主要な一般品種にはなく、米粉麺用の「越のかおり」でその性質を持つものがあるくらいであった。

多収穫米ですら「クサホナミ」以外にはほとんどなかった。

 

要は、品種改良の中で、まずい性質のものはなくなってしまっていたということだろう。