零細米粉研究員の備忘録

米粉に関することなどをたまに書いていきます

多収穫米の米粉パン

自分が米粉パンの研究を始めて、最初にしたのは、多収穫米の米粉パン特性の研究であった。

 

多収穫米とは、文字通りたくさん収穫できる米のことである。多収米や、それ以外の言い方もあるが、ここでは多収穫米で統一する。

多収穫米品種の生産・利用技術によると、多収穫米の生産量は食用の品種と比べて5%~37%の増収となっている(表1、p2)。

増収程度が低い品種もいくつかあるが、これらの品種の多くは出穂日が早く、生育期間が短いために収穫量がそれほど多くないのであろう。

 

これらの品種はほぼ例外なくまずい。以前に何品種か食べたことがあるが、ご飯につやがなく黒ずんでいる品種もあり、食べる前にすでにまずそうなのがよく分かる代物であった。もちろんまずかった。

基本的に多収穫米のご飯はまずいのだが、おいしい多収穫米ができないのかと、そうではない。あくまで現時点ではまずいということである。

ある学生の集団の中から勉強のできる人たちだけ選んだら、平均よりは運動能力が低いことが多いかと思う。だからといって、勉強のできる人は絶対に運動能力が劣るかというとそうではない。どっちもできる人は探せば見つかるだろう。

それと同じように多収穫米の品種改良を進めていけば、きっと収穫量が多く良食味な品種ができてくるのは間違いない。

今のうちは、多収穫米品種はおいしくないことが多いというだけである。

 

自分が行った研究は、これらの多収穫米品種は米粉パンに向くかどうかというものであった。

ご飯としてはまずくても、米粉にしたら問題なく食べられる可能性があることが考えられていたからである。

 詳しいことはそのうち書く予定だが、調べてみたら、ほとんどの品種は米粉パンに向くことが分かった。

それで論文を書くことになったのだが、その中で、多収穫米はどれくらい低コストで栽培できるかが気になった。

イントロのところで、米粉は高いから低コスト化すべきであること、低コスト化の手段として多収穫米の利用があげられる、とか書こうとした。

でも、具体的にどれくらいなのか自分は知らなかった。

多収穫米の栽培には肥料の量を増やす必要があり、その分コストが上がることになると思われたので、実際のところどれくらいか知りたかったのである。

 

そこで、品種改良の担当者に、多収穫米を使うことでどれくらい低コストになるか聞いてみた。

そしたら、「品種や栽培条件によって変わるので一概にどれくらい低コストは言えない」と言われた。

そんなことは言われなくても知っている。

それで、「それなら、茨城県南部地方で、多肥栽培で作られたタカナリは、コシヒカリと比べてどれくらい低コストになるのですか?」と聞いてみた。

そしたら、「個別の例については分からない」と言われた。

それで、「どこでもいいので、多収穫米のコストがどれくらいになるのか教えてください」というと、「○○研究所の××さんなら知ってるかもしれないから聞いてみたらどうか」と言われた。

知らないなら初めからそういえばいいのにと思う。

結局、その××さんも知らなかった。

 

しょうがないので、論文では、「加工用や飼料用に育成された多収性稲は低コストでの栽培が可能であるが、…」といった感じで引用文献なしに曖昧に書くことになってしまった。

 

 

 論文を書いた後でも結局調べてなかったのだが、最近になって他の研究の人から質問されたので調べてみることにした。

営農類型別経営統計(個別経営)に統計データがあるのが分かった。

その中の「2-2 稲作経営 都府県(稲作作付面積規模別)」の「(稲作部門) - 部門労働投下量、部門粗収益及び部門経営費」があった。

平成23年度版は、http://www.e-stat.go.jp/SG1/estat/List.do?lid=000001111032 にある。

 

平均値では、124万3千円の費用がかかっているうち、肥料代は11万1千円であるらしい。

多収穫米栽培マニュアルの10ページには、肥料は1.6~2倍の施肥を行うことができると書いてある。

もし2倍の施肥を行って肥料代も2倍になったとすると、全体のコストは135万4千円となり、約1.09倍のコストとなる。

他の費用が現状と同等とすれば、おそらく10%以上多収となる品種を使えば低コストとなることになるだろう。

20%多収の品種を用いれば、コストは1割くらい下げられるということになるだろうか。

実例をどこかで知りたいものである。