零細米粉研究員の備忘録

米粉に関することなどをたまに書いていきます

米粉パンの種類について

米粉だけでは小麦粉のようにパンを作ることができない。

これは、米のタンパク質の性質が小麦のタンパク質とは異なるからである。

小麦に含まれる、グルテニンとグリアジンというタンパク質が、製パンに重要な役割を果たす。

 

パン生地が発酵中に膨らむためには、発酵中に発生する炭酸ガスの気泡が膨らむ必要がある。そして、できた気泡が割れて隣の気泡とあまり融合しないことが必要である。

気泡が大きくなりすぎると、強度が低下して生地がつぶれやすくなる。

そのため、気泡が大きくなるしなやかさと、気泡が割れない弾力がないといけない。

その役割を果たすのがグルテニンとグリアジンである。

下のは前に作ったプレゼン資料の一つ。

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米粉にはこれらの機能を持ったタンパク質がない。そのため、材料や製法で工夫が必要となる。主に3種類に分けられる。

 

1つ目は、小麦粉に米粉を添加して作ったパン(米粉混成パン)である。米粉の比率が高いほどパンの膨らみが劣ることから(Tanaka, 1971)、膨らみを維持するためには20%程度までの添加量が望ましいとされている。

Takano: Quality Improvement of Rice Bread. JARQ 1971, 181-187.

海外でもこのタイプのパンが作られており、その一つがベトナムのバインミーである。これは、米粉が入ったフランスパンである。ベトナムでは米粉の方が小麦粉よりも手に入りやすかったので米粉が混ぜられているらしい。ただ、自分が見た限り、学術雑誌や本とかでベトナムのパンに米粉が入っていることを見つけることができなかった。人から聞いたりネットで見たりしたくらいである。おそらく今はそんなに使用していないのだろうと思う。ベトナム人の奥さんを持っている人に聞いてみても知らなかったし。

日本では、玄米パンという名称で、1919年に販売された(近代日本食文化年表、p130)。このパンは玄米粉が小麦粉の3~5%入っている蒸しパンであったらしい(山本, 1980)。

山本淳: ライスブレッド(くっきんぐるうむ). 調理科学 1980, 13:280-283.

米粉混成パンの製パン方法は小麦のパンと比較的近いことから、パン工場においても作成しやすい。ヤマザキで「米粉入り食パン」という名称で売られていた。

 

2つ目は、米粉に小麦から抽出したタンパク質(グルテン)を添加して作るパン(グルテン添加パン)である。米粉比率が80-85%、グルテンが15-20%程度であることが望ましいとされている(福盛、2004)。

福盛幸一: パン・菓子用米粉組成物、米粉パン・菓子およびその製造方法. 特開2004-267194.

米粉の比率が米粉混成パンの4倍程度と多いことから、モチモチした食感をしているほか、米の消費量拡大が期待されている。モチモチしているのは、米粉の方が吸水が多いからである。

製パン方法が一般のパンとは異なるため、中小規模の製パン業者などで主に販売されている。ローソンでも以前にあんパンなどを販売していた。諸外国においては、調べた限りでは販売しているのを見たことがない。もしかしたら韓国あたりで作っているかもしれない。

 

グルテンフリー米粉パンは、米粉に増粘多糖などを加える等により生地に粘弾性を持たせて作ったパンである。
食感は一般的なパンとはかなり異なっていることが多い。小麦の成分を含んでいないため、小麦アレルギーやセリアック病など、小麦の食べられない人でも食べることができる。
セリアック病とは、小麦タンパク質が原因で起きる自己免疫疾患であり、アメリカでは133人に1人がこの病気にかかっているという報告がある。

増粘多糖としてグアーガム、キサンタンガム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)などを用いる(中村幸一, 諸橋敬子: パン製造用の米粉及び米粉を用いたパンの製造方法. 特開2005-245409.など)。

ただ、グルテンとは性質がやはり違うので、食感が普通のパンとはかなり異なる。甘くない軽羹の様な感じがであった。あと、このタイプのパンは特に硬くなりやすい。電子レンジなどで温めてからでないとおいしくないものが多い。
フィリピンでは、米を乳酸発酵することで作る、プトというパンがある。最近ではベーキングパウダーで作ることが多いようである。「Rice recipe in the Phillipines」に書かれたレシピもベーキングパウダーで膨らませる方法であった。

麹発酵することにより米粉100%のパンを作る方法も最近開発されている。Hamadaらの論文で報告されており、米のタンパク質を分解することで可能になっているようである。研究成果情報としても報告されている。

グルタチオンを用いて米のタンパク質を変性させることで作られた米粉パンもある。Yanoらの報告によると、グルタチオンを添加することで米のタンパク質間の結合を外すこととで製パンが可能になったそうである。こちらも研究成果情報として公開されている。

 

色々な文献で米粉パンの事を調べたが、結局のところ、米粉パンとは、文字通り米粉の入ったパンのことである。米粉が入っていれば、とりあえず米粉パンと言ってもいいようである。

少なくとも農水省とかで基準を定めたとかいう話は聞いたことがない。そのうち規格とかができるかもしれないし、もしかしたら自分が知らないだけでどこかにあるのかもしれないが。

 

ちなみに、自分が研究をしてきたのは、主にグルテン添加米粉パンであった。米粉混成パンより品種間の差が出やすかったのと、グルテンフリー米粉パンよりは作りやすかったからである。